このまえのはなし

お座敷のあるお店でご飯を食べていると、隣に座っていた中年男性が突然椅子から滑り落ちた。

「痛ったあー!」

どうやら椅子から落ちた拍子に床に手をついてしまったようだ。このお店の椅子は低い長椅子のようになっていて、縁が丸くて確かに滑り落ちやすい形をしている。少し経ってもまだ椅子から落ちたまま指のあたりを触っては苦悶の表情を浮かべていた。

「大丈夫ですか。」

あまりの痛がりように、店員さんも苦笑しつつ、声をかけた。隣でご飯を食べていた僕も、なんだこいつうるさいなあと少し心配しつつ、気にせず箸を進めた。
数分してもまだ指を触っては痛そうにしている姿に笑いを堪えていると、突然、おじさんが話しかけてきた。

「骨折したかもしれない。」
「ええ、そうですね。」
「少し触ってみてくれないかな。」
「ええ、いいですよ。」
「痛ったあー!」

軽い会話を交わし、食事を終え、退店した。後ろをついてくるおじさんを一瞥し、家路についた。

翌日、あのおじさんからラインが来た。
「指折れてたわ笑」

やっぱりか。歳には逆らえない。
治ったらゴルフ行きましょうね、おじさん。

しゅー